2020年03月24日

未払い残業代の時効が2年から3年へ(令和2年4月1日施行予定)

現行、賃金等請求権の消滅時効については、
労働基準法第115条で
「この法律による賃金(退職手当は除く)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効により消滅する。」
と定められています。

現行の民法では、一般の債権については消滅時効は10年と定められていますが、使用者は商人ですので、賃金請求権等は商事債権として消滅時効は5年間となるのが原則です。

ただし、「月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給与にかかる債権」については、1年間の短期消滅時効が定められおり、こちらが適用されます。

このため、民法上の原則に従うと、月給制の社員であれば、月例賃金請求権の消滅時効は1年となりますが、それでは短すぎて社員の保護としては十分でないことになります。

そこで労働基準法は、「月又はこれより短い時期によって定めた」賃金請求権の消滅時効を2年に延長しています。

しかし、令和2年4月1日の民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)の施行により、使用人の給与等に関する短期消滅時効が廃止され、
一般債権に係る消滅時効については、
@債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
または
A権利を行使することができる時から10年間行使しないとき
に時効によって消滅するとされました。

このため、民法の短期消滅時効の規定が削除されることに伴い、労働基準法上の賃金の消滅時効の見直しについても、民法の改正とのバランスも踏まえて、賃金等請求権の消滅時効について5年間と改正される予定です。

ただし、労働政策審議会労働条件分科会における労使の議論により、賃金請求権について直ちに2年間から5年間と長期間の消滅時効期間を定めることは、労使の権利関係を不安定化する恐れがあり、紛争の早期解決・未然防止という賃金請求権の消滅時効が果たす役割への影響等も踏まえて慎重に検討する必要があると結論づけられたことから、当分の間、労働者名簿等の記録の保存期間に合わせて、3年間の消滅時効期間とする経過措置が加えられたものです。

この建議を踏まえ、労働基準法の改正施行が令和2年4月1日に予定されています。

法改正により、
@労働者名簿等の書類の保存期間
A賃金(退職手当を除く)の請求権の消滅時効期間
B付加金の請求を行うことができる期間
の原則は5年間となりますが、経過措置により当分の間は3年間となることから、以下のようになります。

@賃金(退職手当を除く)の請求権の消滅時効期間が、2年間から3年間に変更
A付加金の請求を行うことができる期間が、2年間から3年間に変更

なお、実際に賃金の消滅時効期間が3年間となるのは、令和2年4月以降に支給する賃金からです。
(法改正前に支払期日が到来した賃金の請求権の消滅時効については、影響を受けません)

では、時効が3年に延長された場合の実務への影響として、未払い残業代の請求金額の増額が考えられます。

具体的には、以下のようになります。

月平均所定労働時間173時間、未払い残業30時間/月と仮定

基本給20万円(52万円アップ)
・2年時効 104万円
・3年時効 156万円
基本給30万円(78万円アップ)
・2年時効 156万円
・3年時効 234万円
基本給40万円(104万円アップ)
・2年時効 208万円
・3年時効 312万円
基本給50万円(130万円アップ)
・2年時効 260万円
・3年時効 390万円

時効が3年に延長されることで、未払い残業代のリスクが50〜130万円程度増えることになります。

なお、月間30時間の残業とは、1日1.5時間程度の残業状態を指し、始業9:00、終業18:00(休憩時間1時間)の会社の場合、出勤日に毎日19:30まで残業した場合の時間に相当し、決して非現実的な数字ではありません。

労働者側の代理人となって未払い残業請求をする弁護士の立場から見ても、金額がここまで大きくなると「儲かる案件」になることでしょう。

通常、一人の社員に未払い残業代が発生している場合は、その他の社員についても、未払い残業代が発生しているケースが多いため(他の社員も同じルールで残業代を計算していること一般的であるため)、未払い残業代を請求する社員数が10人単位で発生すると、1回の未払い残業代請求で会社が倒産する事態もあり得ない話ではなくなりますので、注意が必要です。

posted by ユナイテッド・パートナーズ社労士事務所 at 14:53| 労務相談Q&A