2020年02月13日

IPO・M&A労務監査・労務デューデリジェンス(DD)|退職給付債務

IPO・M&A労務監査・労務デューデリジェンス(DD)において、最も重要なチェック項目の1つとして、「退職給付債務」があります。

退職金規定に基づく退職給付債務は、原則として、将来必ず発生する債務であり、労務監査・労務デューデリジェンスにおいてその内容を的確に把握する必要があります。

@退職金の法的な位置づけ
A退職金の2つの考え方
B2つの退職金制度
C退職給付債務の計算方法
Dその他のよくある問題

【@退職金の法的な位置づけ】

まず、退職金の法的な位置づけですが、退職金は、そもそも会社が必ず支給しなければならないものではありません

労働基準法においても
「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」を就業規則に定めなければならないと記載されているだけで、退職金を支給しなければならないとは記載されていません

つまり、退職金は本来的に会社からの恩恵的給付です。

しかし、それが退職金規定などで制度化され、支給要件が明確にされた場合は、それは労働契約の一部として会社は保証しなければなりません

このため、退職金規定などの基づき、社員から退職金の支払を請求された場合には、会社にその支払義務が発生します。

【A退職金の2つの考え方】

次に退職金については、2つの考え方を整理しておく必要があります。
 @(退職金規定に基づく)退職金制度がどうなっているのか?
 A@の支払をするための資金の準備(原資確保)がどうなっているのか?

@については、その会社ではどういうルールで退職金が支給されるのかの確認が必要です。

例えば、非常に多くの会社で採用されている
 退職金=退職時の基本給×勤続年数×退職事由別支給率(自己都合退職0.5、会社都合退職1.0)
で支給するとの内容です。

これは、「会社と社員との間の約束の問題」です。

Aについては、@の退職金を支払うために、どのような方法でそのお金を準備(支払原資を確保)しているかの確認です。

つまり、@の約束を守るためには、退職者が発生した時点で、その退職金相当額のお金が会社になければなりません。

これは、この「お金の準備(原資確保)をどうするかの問題」です。

この@とAは分けて考える必要があります。

この@とAを分けて考えないと、退職金については、混乱します。

【B2つの退職金制度】

また、退職金制度は大きく分けて2種類あります。
 @確定給付型の退職金制度
 A確定拠出型の退職金制度

@確定給付型の退職金制度とは
将来、その人が受け取ることができる退職金支給額があらかじめ定められているものです。
例えば、「勤続40年で1,000万円を支給」というように、退職金の支給額自体を約束しているものが、これに該当します。

A確定拠出型の退職金制度とは
将来の退職金支払のため、毎月会社が拠出する額が決まっているもので、実際の支給額はその運用成績如何によって変動するものです。
例えば、毎月10,000円会社が拠出することを約束しているが、その後の運用によって退職金額はいくらになるかは分からないものが、これに該当します。

なお、Aの場合には、資金の拠出により、会社の責任は終わっているため、退職給付債務は存在しません

@の場合にのみ、退職給付債務が発生します

【C退職給付債務の計算方法】

退職給付債務の計算方法には、2種類があります。
 @原則法
 A簡便法


@原則法
退職給付債務とは、社員の退職に伴って将来発生する給付のうち、既に発生していると認められる金額のことをいい、割引計算によって求めます。

これを理論通り数理計算により求めるのが原則法です。

将来、社員の退職に伴って発生する退職金総額の現在価値(退職給付債務)は、退職金規定の内容のほか、社員の離職率や死亡率、昇給率等の影響を受けます。

原則法によりそれを求めようとすると、年金数理計算の専門職であるアクチュアリーに依頼する必要があります。

A簡便法
社員数300人未満の会社については、一般的には原則法にはよらず簡便法により退職給付債務を計算します。

簡便法とは、基準日において社員全員が自己都合退職をした場合の退職金の要支給額の合計を退職給付債務(期末自己都合要支給額方式:最も採用されている方法)とするものです。

退職給付債務に対して支払原資が確保されているのか、つまり内部、外部に引き当てあるいは積み立てられた金額が足りているのかどうかを確認することになります。

中小企業の場合、退職給付債務の計上がされていないことがほとんどなので、その場合は計算した退職給付債務がそのまま簿外債務となります。

【Dその他のよくある問題】

その他のよくある問題として、退職金規定の整備が不十分なため、退職金支給対象者の範囲が広がってしまう場合があります。

退職金の支給対象者は実際には正社員のみで、パート・アルバイトには支給していないのに、退職金規定上はその区分がされていないというケースです。

仮にパート・アルバイトの雇用契約書において退職金が不支給になっていたとしても、退職金規定がパート・アルバイトを除外する内容になっていなければ、法的には支払義務が発生する可能性があります。

これは、雇用契約書よりも就業規則(退職金規定)の内容のほうが優先されるからです。

どのような種類の社員が存在して、その社員の種類ごとに、どの就業規則等が適用されるのかは、非常に重要な内容であり、この点を必ず確認する必要があります。

posted by ユナイテッド・パートナーズ社労士事務所 at 11:56| IPO・M&A労務監査・労務デューデリジェンス(DD)